文学の嗜み

文学表現全体の総合的な研究

遠野遥『破局』主人公の陽介が犯したそもそもの誤り

 

 

遠野遥さんの『破局』は、第163回芥川賞受賞作。

主人公の陽介は法学部に在籍し公務員を目指す大学4年生。
陽介は、高校時代のラグビー部顧問である佐々木からの依頼で、母校のラグビー部のコーチをしている。

陽介は強くて優しくて頭もいい学生で、大学生活は順風満帆。
陽介が小さい頃にいなくなった父親は、女性には優しくしろと、口癖のように言っていた。
陽介には彼女がいて、公務員試験も順調。

陽介は理想的な大学生として描かれているが、破局が待っている。
完璧な人間にも見える陽介だが、些細な判断の誤りにより歯車が狂い、破局へと向かう。
破局するのは、彼女との関係だけではない。

陽介は、自己分析を怠らず、公務員になるのだからという理由で、紳士的でいるよう心掛けている。
他人をよく観察し理解しようとする人格者のようにも見える。

陽介は、彼女との関係でも法律の遵守について思考するような人間だ。
彼女が望まないときは性欲を抑えることができ、性行為では毎回同意が必要と考えている。
ただし、自らの性欲に関しても深く分析しようとするところは滑稽に感じるかもしれない。
陽介は、彼女とのやり取りや日常の些細な事にも、頭の中で法律をあてはめる。
だが陽介を大局的に見ると、筋トレと自慰と勉強を日課にしている。

陽介は、一緒に過ごす時間が減っていた麻衣子と別れ、新入生の灯と付き合い始めた。
陽介と麻衣子は、小学生のときからの友だち。
麻衣子は、将来政治家になることを目指し政治塾に通っている。服装はワンピースを着ることが多い。

灯は18歳の新入生で商学部。ショートパンツを穿いていることが多い。陽介と付き合っていくうちに性欲が強くなる。
陽介は、麻衣子とはきちんと別れたつもりでいて、麻衣子も了承しているようだ。
だから陽介としては問題ないと考えている。
だが人の心理は理解しきれなく、誤解も生まれる。

異性にも同性にも、そつのない受け答えをしてきた陽介であったが、麻衣子や灯の言動を理解できなくなり関係はちぐはぐする。
その他にもラグビーの指導方針に関して顧問の佐々木との意見が合わなかったり、自分に対する部員の陰口を耳にしたりして苛つく。
陽介の自己分析には客観性が不足しているようだ。
他人からすれば陽介の言動には問題がある。