文学の嗜み

文学表現全体の総合的な研究

柴崎友香『春の庭』古いアパートでの出会いと懐かし記憶を辿る物語

 

柴崎友香さんの中篇『春の庭』は、第151回芥川賞受賞作。初出は『文學界』2014年6月号。同年7月に文藝春秋より単行本が刊行されました。
柴崎友香さんは、本作の出発点が実体験から想像を膨らませたものであることを、インタビューで明かしています。写真家が自宅で撮影した写真集があり、東京に引っ越したら、その家が近くにあると知り、想像が膨らんだそうです。

物語の主な舞台は、主人公の太郎や西が暮らす、2014年の東京都世田谷区にある2階建てアパートと、近所の高級住宅。一見、平凡な日常の中で起こりそうな、さまざまな出来事を描いた小説です。

本作は、視点を人称で固定せずに書かれています。こういった手法は、一般的に読者を混乱させる恐れがありますが、芥川賞の選考では、評価する意見が出ており、そして授賞に至りました。例えば、俯瞰的だとか、ノスタルジックに過去と未来を繋ぐ効果を生んでいる、といった意見が出ています。

ただ、描写などに関しては意見が分かれました。授賞反対意見では、例えば記号を使った描写などを挙げ、作家にとってもっとも重要ともいえる描写なのに、なぜそのような手法が必要なのか、という意見がありました。また、力量を認めながらも、面白さを掴み損ねたとも。
対して、授賞賛成の選考委員は、作家としての試みを面白いと評価し、柴崎友香さんを稀有な小説書きであると評し、推したようです。