文学の嗜み

文学表現全体の総合的な研究

橋本陽介『物語論 基礎と応用』形式を重視する研究による作品の解明

 

 

橋本陽介氏の『物語論 基礎と応用』(講談社, 2017年4月)をご紹介したい。

文学研究には、「何が書かれているのか」という内容を重視する方法と、「どのように書かれているのか」という形式を重視する方法とがある。物語論(ナラトロジー、英語:narratology)は後者、形式を重視する立場だ。

本書では、主にフランス構造主義の物語論を中心に、その理論の関係性や拡がる過程、歴史などが紹介されている。本書で扱う物語論とは、物語の背後にある設計図として論じられてきた理論のことである。理論を紹介しつつ、具体的な作品分析を通じて、作品を明らかにすることが目標であると、書かれている。

物語論の研究者らは、「内容」と「形式」を分割して考えた。そして「何が書かれているのか」という内容よりも、「どのように書かれているのか」という形式を重視した。さらに「語り」の概念も加えたのである。

この立場では、作者や時代背景よりも、作品の言葉そのものに眼を向ける。言語学や文体論も用いて物語そのものを論じるのだ。作品のもつ意味を解釈し批評するのではなく、言語表現の方法と構造面から作品解明を目指す。

本書を読むと、文学を科学的に分析し、メカニズムを解明することの、面白さや有効性を実感できるであろう。物語の作り方が分かると、今まで以上に楽しんで作品鑑賞ができそうだ。短絡的に作品からのメッセージを受け取ることも少なくなると思う。

本書は、第Ⅰ部「理論編」と第Ⅱ部「分析編」の2部構成である。第Ⅰ部で文学理論を学び、第Ⅱ部で具体的な作品分析を行う。理論を紹介しつつ、具体的なテクストを分析し、物語そのものの構造を論じ、設計図を明らかにしていく。物語論の基礎を学びながら、読解や創作などへの応用の仕方を享受できる。

著者は、物語には設計図のようなものがあるという。書き方は、ある程度決まっていると述べている。エンターテインメント作品において、どのような展開になっているとおもしろいと感じるのかなども、書かれている。

物語のテクストは、小説や漫画、映画、テレビドラマなどのフィクションだけにとどまらない。著者は、新聞のルポルタージュや歴史家の叙述なども物語化されやすいと考え、分析の対象としている。日常の出来事の報告やニュース、歴史叙述などは、一応は事実であって虚構ではないが、同時に物語でもある。

フィクションとノンフィクションとの境目は程度問題であると、著者は述べている。小説という架空の話にモデルがあり、新聞記事にはイデオロギーなどが反映されているなら、確かにその通りだ。

本書では、何らかの出来事や家族との会話などについても、一種の物語としている。ここで言う物語は、人間の言語活動ともいえよう。物語があらゆるところに偏在すると考えれば、物語論を応用できる場面は日常生活にまで及ぶ。