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村上春樹『螢・納屋を焼く・その他の短編』大ベストセラー長編の下敷き「螢」など5編

2021-09-16更新

村上春樹さんの短編集『螢・納屋を焼く・その他の短編』(新潮社, 1984年7月)には、昭和58、9年ごろに発表された5編が収録されている。

5編のタイトルと初出は、次のとおりである。

掲載誌一覧
『螢』 「中央公論」昭和58年1月号
『納屋を焼く』 「新潮」昭和58年1月号
『踊る小人』 「新潮」昭和59年1月号
『めくらやなぎと眠る女』 「文學界」昭和58年12月号
『三つのドイツ幻想』 「ブルータス」昭和59年4月15日号

「螢」は大ベストセラー長編『ノルウェイの森』の下敷き

「螢」は、長編小説『ノルウェイの森』(講談社, 1987年)の第2章と第3章の原型だ。

話の筋や構成だけでなく、描写なども、ほぼそのまま使っている場面が多い。ただし、すべて同じというわけではなく、部分的に会話や表現に手を加え、登場人物を増やし、文章を書き足している。読み比べると、エピソードを追加したりブラッシュアップしたりしていることが分かる。

「螢」は短編小説のため登場人物が少なく、「僕」の身に起こった出来事として書かれている。

『ノルウェイの森』では、「彼女」を「直子」とし、「仲の良い友人」を「キズキ」というように名前を付けた。地理学専攻の同居人には「突撃隊」という渾名をつけた。
そして主人公の「僕」の名前は「ワタナベ」。

また、『ノルウェイの森』には「永沢」という先輩が登場するなどの違いもある。「永沢」は東大法学部の学生で、「ワタナベ」よりふたつ上。「突撃隊」と「永沢」は、「ワタナベ」と同じ学生寮に住んでいる。

地理学専攻の同居人は、学生寮の中では少し浮いた存在で、『ノルウェイの森』ではその事が強調されている。良く言えばきれい好きだが、潔癖症。
彼はラジオ体操をすることを日課にしている。そして話すときに吃ってしまう。

同居人は、女の子へのプレゼントにと、「僕」に螢をくれた。だが「彼女」は、「僕」のもとからすでに離れてしまった後だった。

上述した通り、「螢」は『ノルウェイの森』の第2章と第3章の原型。「螢」の主人公の「僕」は、彼女と会えなくなり、悲しみや後悔に打ちひしがれる。『ノルウェイの森』ではさらにショッキングな出来事が起こるのだ。