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村上春樹『1Q84』の世界観と執筆テーマを考えてみた

1Q84(BOOK1~3)合本版(新潮文庫)

目次

単行本で3巻、文庫本で6冊からなる村上春樹氏の長編小説『1Q84』

村上春樹氏の長編小説『1Q84』は、2009年から2010年にかけて、新潮社から発売された作品です。本書は2009(平成21)年度の毎日出版文化賞(文学・芸術部門)受賞作。
単行本はBOOK1、BOOK2、BOOK3の全3巻からなり、BOOK1とBOOK2は2009年に、BOOK3は2010年に発売されました。
単行本のページ数は、BOOK1が556ページ、BOOK2が504ページ、BOOK3が604ページで、合計1,664ページです。
文庫本では、BOOK1、BOOK2、BOOK3の各巻が前編と後編に分かれるため、全6冊です。

村上春樹氏著作の『1Q84』のあらすじは複雑

この物語の主人公は、2人の男女、天吾と青豆です。
小学生のときに想いを寄せ合っていた2人は、大人になってからお互いを探そうとし、数々の試練を乗り越えて再会します。

それから『1Q84』の大きな出来事の一つは、主人公の一人である天吾が、深田絵里子という女子高生の書いた空想的な小説をリライトし、文学賞を受賞したことです。
そのことが、その後の物語の展開に深く関わっていきます。

『1Q84』では、空想的な異次元の出来事を綴った小説上の出来事が現実に起こったり、様々な超常現象が起こったりするなど、ファンタジーの要素をふんだんに盛り込んでいます。
その空想的な小説とは、深田絵里子の書いた『空気さなぎ』という小説のことです。
天吾と青豆は、様々な超常現象に出くわしたり、月が2つある1Q84年の世界に紛れ込んだりします。
最終的に、天吾と青豆の2人は、本来の世界である1984年に戻ることができます。

『1Q84』の執筆動機は2つある

村上春樹氏は、『1Q84』の執筆動機や背景として、次の2つを挙げています。
一つは、故・ジョージ・オーウェル氏の近未来小説『1984年』。
この小説を土台に、近過去の小説を書きたいと考えていたそうです。
1945年に刊行されたジョージ・オーウェル氏の『1984年』は近未来小説でしたが、村上春樹氏の『1Q84』は近過去の小説ということになります。

もう一つは、1995年に起きた地下鉄サリン事件。
村上春樹氏は、地下鉄サリン事件の取材をまとめた2つのノンフィクション文学作品を執筆しています。
被害者やその関係者へのインタビューをまとめた『アンダーグラウンド』。
そして、元信者8人へのインタビューなどをまとめた『約束された場所で―underground 2』。

村上春樹氏は、その後も裁判の傍聴を続けていました。
村上春樹氏は、事件への憤りはあっても、基本的に死刑制度には反対の立場です。

長編小説『1Q84』に込められた作家の意図

『1Q84』は村上春樹氏の代表作の一つであり、朝日新聞が識者へのアンケートで選んだ「平成の30冊」では第1位でした。
この『1Q84』という小説には、ファンタジーの要素が盛り込まれています。
それと同時に、執筆の動機がジョージ・オーウェルの『1984年』にあり、ディストピア的な要素も強い小説と言えるでしょう。
ただし、アメリカ人評論家のインタビューで、村上春樹氏は次のように述べています。

「1Q84のタイトルは冗談です。洒落のかかっているオーウェルのリファレンスです」

村上春樹氏は、同じインタビューで次のようなことも述べています。
『1Q84』は、短編集『カンガルー日和』所収の、自身の小説「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」から派生した物語であると。

「基本的には同じです。男の子と女の子が出会い、離れ離れになります。彼らは、大人になってからお互いを探し始めます。単純な物語です。ただ長くしただけです」

中心人物を代えながら繰り返される『1Q84』の全79章

『1Q84』は、第1巻と第2巻が24章、第3巻が31章から成り、各章を3人の登場人物に割り当てる構成です。
章ごとに中心人物および視点を代える手法は、この小説の特徴の一つになっています。
第1巻から第2巻までは、2人の主人公、青豆と天吾の章が交互に繰り返され、第3巻からは牛河という人物の章が加わるという構成です。

牛河は、宗教団体「さきがけ」に雇われて、青豆と天吾を調査する人物です。
牛河は、弁護士の資格を失い、離婚して裏社会で生きています。

『1Q84』は、想いを寄せ合いながら離れ離れになった小学生の男の子と女の子が、成人してからお互いを探し、ファンタジーの世界で試練を乗り越え、遂には巡り合うという壮大なラブストーリーです。
その壮大なラブストーリーに、途中から裏社会で生きる男を中心人物の一人にしています。
そうなると、単なる壮大なラブストーリーでは終わりません。

小学生のときに出会った男の子と女の子が、大人になってからお互いを探し始める物語であれば、これだけの長編にする必要はないと思います。
『1Q84』の結末では、大きな出来事が2つ起こりました。
それは、青豆と天吾の想いが遂に達成されたことと、牛河が殺されたということの2つです。
この単行本3巻、文庫本で全6冊の長編小説は、じっくりと読み味わってみると、考えさせられることが多くなるはずです。