文学の嗜み

文学表現全体の総合的な研究

三浦しをん『まほろ駅前多田便利軒』女性作家による男性的な男の友情物語

三浦しをんさんの『まほろ駅前多田便利軒』は第135回直木賞受賞作である。単行本の刊行は2006年3月。
初出は隔月刊の小説誌『別册文藝春秋』。本作は、2005年1月(255)号から2005年11月(260)号にかけて連載された。単行本が6話から成るのはそのため。
本作のように、『別册文藝春秋』に連載された後に、単行本化され直木賞を受賞した作品は多い。本誌は、2015年6月号より電子版『別冊文藝春秋』に移行した。

 

三浦しをんさんの『まほろ駅前多田便利軒』は、エンターテインメント性が高く、素直に楽しめる作品。登場人物の言動やストーリーが抜群に面白い。直木賞の選評も、概ね良い。好みの違いは、多少あるだろうが、面白い小説を読みたい人なら、楽しめるはず。

主人公の多田啓介は便利屋。地元のまほろ市の駅前に事務所兼自宅がある。従業員は彼一人であった。
ある日、仕事中に高校の同級生と再会する。彼の名前は行天春彦。成績が良く、見た目も悪くなかったが、校内では変人として有名だった男。
おひとよしの多田と、愛敬があるが変人の行天。特に親しかったわけではない二人。多田には行天に対して、後ろめたい過去があった。駅まで送るだけのつもりが、一泊させることになり、そのまま行天は……。

多田と行天が通った高校は進学校。進学校と聞くと、おっとりとした優等生ばかりと思い込んでいる人もいるが、実際はそうではない。二人が通った東京都立まほろ高校もそのようだ。僕が卒業した公立の進学校もそうであった。
多田も行天も、以前は会社に勤め、堅実な人生を送っていたが、それぞれに人生の転機があり、現在に至り、再会した。

便利屋は、どちらかというと男性向きの仕事。行天が居着いたこともあってか、便利屋の仕事にしては、危険な目にも遭う。男性的で男目線の語りや会話も多い。
本作は男の友情物語とも言える。それを女性の三浦しをんさんが、29歳のときに書いた。だが、多田と行天の心情はよく伝わってくるし、自分に通じるものも感じた。作家が女性なのか、男性なのかの違いは、それほど大きくはなく、作家としての力量の方が重要なようだ。