文学の嗜み

文学表現全体の総合的な研究

買い替えると買い換える、どちらが正しいのか

「買い替える」と「買い換える」、どちらの漢字を使うべきでしょうか。どちらを使っていますか?

新聞の広告・チラシや大型小売店のポスター、テレビ番組のテロップなどでは「買い替える」の表記をよく目にしますが、小説などを読んでいると「買い換える」という表記も多いようです。

辞典や用字用語集で調べたところ、「買い替える」の方が的確という見解が載っていました。ただ、最近刊行された本や雑誌でも、両方の字が使われています。この事は国語辞典でも言えます。

所有している辞典類で調べたところ、「買い換える」と「買い替える」の両方が載っている場合と、「買い替える」のみを載せている書籍に分かれます。「買いかえ」には触れずに、「かえる」のみに触れている場合もあります。

『大辞林』(三省堂)と『広辞苑』(岩波書店)では、「替える」と「換える」の表記について、次のように説明しています。
『大辞林 第二版』と『大辞林 第三版』(アプリ版 スーパー大辞林3.0)では、「替える」の説明を「同種・同等の別のものと交替させる」とし、「商売・水槽の水・シーツ・メンバー」を用例に使っています。「換える」の説明は「ある物を与えて別のものを得る」とし、「宝石を金に換える」という用例を載せています。
さらに『大辞林 第三版』では、「替える・換える・代える・変える」の表記についての追記があります。「替える」が「同種の物といれかえる」の意で、「換える」が「他の物ととりかえる、交換する」の意であると説明しています。
『広辞苑 第七版』には、「替」はある物にかえて別のものにする、「換」は物をとりかえる意で使うことが多いと書かれています。

『三省堂国語辞典 第七版』(三省堂)には、次のよう説明があります。
「替える」に関しては、①②③④に分け、②の説明が「次の、新しいものにする」です。そして用例のひとつが「買い替え」です。
「換える」に関しては、①②③に分けています。①は「相手にものをわたし、別のものを受け取る、交換する」、②は「今までのものをやめて、ちがったものを選ぶ」、③は「今までとは、ちがった場所・部署に置く」です。用例としては、①が「本をおかねに換える」、②が「ことばを換えて言えば・置き換え・乗り換え」、③が「配置を換える」です。

次は『記者ハンドブック 第13版』(共同通信社)と『最新用字用語ブック 第7版』(時事通信社)の「かえる・かわる」の項目についてです。

『記者ハンドブック』には、「換」がAとBを交換する場合で、「替」が新しく別のもの・行為にする場合であることが記されています。同様に『最新用字用語ブック』では、「換」があるものを渡して別のものを受け取る場合で、「替」が前の物事をやめて別の物事をする・新しいものにする場合であることが記されています。これに従えば、「買い替える」となります。どちらの用字用語集にも、用例として「買い替え」を載せています。

『記者ハンドブック』と『最新用字用語ブック』では、「取り換え」と「入れ替え」のような書き分けもしています。ですが、『広辞苑 第七版』では「取り替える」です。そして用例に「部品を取り替える」という文があります。

『記者ハンドブック』や『最新用字用語ブック』と同じような立場を取る国語辞典が、『三省堂国語辞典 第七版』(三省堂)、『岩波国語辞典 第七版』(岩波書店)、『新明解国語辞典 第七版』(三省堂)です。この3冊では、「買い替え」という表記のみを載せています。
『三省堂国語辞典 第七版』は、「替える」「換える」「変える」「代える」を別々の見出しにして、さらに「返る」「帰る・還る」「孵る」等も、丁寧に解説しています。この書き分けに迷ったら、『三省堂国語辞典 第七版』が頼りになるでしょう。

ただ、「買い替える」と「買い換える」の両方を認めている国語辞典も多いのです。『明鏡国語辞典 第二版』(北原保雄, 大修館書店, 2010年12月1日発行)、『新潮現代国語辞典 第二版』(新潮社, 2000年2月5日発行)は、「かいか・える」という見出しの後の表記欄は【買い換える・買い替える】となっています。
『広辞苑 第七版』(岩波書店)、『大辞林 第二版』(三省堂)、『大辞林 第三版』、『精選版 日本国語大辞典』(小学館)の、4冊の中型国語辞典においても、同様です。「かい-か・える」には「買い換える」と「買い替える」の両方が載っています。

『ベネッセ表現読解国語辞典』(ベネッセコーポレーション, 2003年5月初版発行)では、「かいかえ」という見出しはありませんが、「か・える」の項目を見る限りでは、両方の表記を認めているようです。【代える・替える】と【換える・替える】とに分け、【代・替】が、ある役目を別のものに担わせる、【換・替】が、もとのものを捨ててそれと同等の別のものを用いる、という説明です。

『角川必携国語辞典』(大野晋・田中章夫, 角川書店, 1995年10月27日初版発行)にも、「かいかえ」の項目はありません。「かえる」の項目を見ると、『記者ハンドブック』や『最新用字用語ブック』などに近い語釈でした。これに従えば「買い替える」となるでしょう。

さらに手元にある9冊の国語辞典の中で、もっとも発行年度の古い『旺文社国語辞典 改訂新版』(松村明・山口明穂・和田利政, 旺文社, 1986年10月20日発行)を引いてみました。「かいかえ」という言葉は載っていませんので、「かえる」を調べたところ、「代える・替える・換える」の使い分けが載っていました。次のように書かれています。

「代える」は、あるもので他のものに間に合わせる意
「替える」は、あれとこれとが交替する意
「換える」は、物と物とを取りかえる意

最後に、「換」と「替」という二つの漢字を、『漢字源 改訂第五版』(学研)を参照しながら比較してみます。

『漢字源』には、「換」の意味について次のように記載しています。「かえる、かわる、中身をすっかり入れかえる、取りかえる、入れかわる」。そして交換という熟語が例示されています。
「換」は会意兼形成文字です。まず、会意文字の側面で述べると、「換」の原字である「奐」は、女性のしゃがんださまと、両手を組み合わせた会意文字です。
「奐」は、胎内から胎児を取り出すさまを表しています。「奐」の上部が両股を開いた女性のさまで、下部が両手です。この「奐」という字は、ゆとりをもって、まるく抜き取るという意も含みます。
次に形成文字の側面について述べます。「換」は意符「手」と音符「奐(カン)」の組み合わせです。音読みは漢音が「カン」で呉音が「ガン」です。

「替」の意味については「かわる、次のものと入れかわる」と『漢字源』に記載されています。この場合の同義の漢字は「代」。交替という熟語が例示されています。
「替」には、「かわって、身代わりとなって」という意味があり、のちに「だれだれのために」という意味にもなります。「おとろえる、すたれる」という意味もあります。
さらに日本語特有の意味として「かえ、身がわり、代用品」という意で使われるようになりました。
「替」は、夫(おとこ)ふたりと、日(動詞の記号)を組み合わせた会意文字です。「替」は、Aの人からBの人へ入れかわる動作を示しているのです。音読みは呉音が「タイ」で漢音が「テイ」です。

この「買い替えると買い換える、どちらが正しいのか」という漢字表記の選択に関しては、結論付けが難しいようです。辞典類で確認したところ、「買い換える」と「買い替える」の両方が載っている場合と、「買い替える」のみを載せている書籍に分かれます。

もし故障などで「部品をかえる」という文言を使うときは、「部品を換える」としたほうがよいでしょう。「換える」が、他のものととりかえる、交換するという意で、「替える」が、前のものをやめて新しくするという意だとすると、「部品を換える」としたほうが適切です。