文学の嗜み

文学表現全体の総合的な研究

誉田哲也『インビジブルレイン』極道に恋心を抱いてしまう玲子

 

姫川が牧田の正体を知ったのは土砂降りの夜

マンガ喫茶でアルバイトをする柳井健斗には、悲劇的な過去がある。
柳井健斗の家族は、全員が亡くなった。
柳井健斗の復讐劇に、暴力団の利権や複雑な人間関係が影響しながら、一連の事件は起こる。

母親が病死したあとに、柳井の家庭で起こった、父と姉との近親相姦。
姉は、父との関係を断ち切るために、アルバイトでお金を貯めて、家出することを決意する。

家出する際に、暴走族のメンバーでもあった高校時代の先輩、小林充の力を借りた。
尋常ではない柳井家の家族関係が、一連の事件の発端となる。

情報屋の仕事を始めた柳井健斗は、裏社会との繋がりを持ち、極清会の牧田勲と知り合う。
牧田は、柳井の過去と自分自身の過去を重ね合わせ、柳井健斗の復讐に力を貸す。

誉田哲也さんの姫川玲子シリーズの主人公は、警部補の姫川玲子。
姫川は、警視庁刑事部捜査第一課殺人犯捜査第十係の主任である。
第十係の第二班、通称「姫川班」の主任を務めている。
捜査一課は、警視庁の花形の職場だ。

姫川と牧田の出会いは、柳井健斗の自宅アパート。
姫川は、捜査会議に出席せずに、張り込みながら単独捜査をしていた。
牧田は、柳井健斗が姿をくらましたと聞き、確認しにきていた。

牧田は、姫川に不動産会社の営業部長の名刺を渡す。
名刺には、槇田功一という偽名が印刷されてある。

携帯電話の番号交換をし、二人は何度も密会する。

姫川と牧田は、次第に親密になってゆく。

姫川には、捜査に必要な情報を得るという目的があり、牧田には警察が持っている情報や捜査状況を探るという目的がある。
だが、二人が会う目的は、それだけではない。
二人は、初対面のときからお互いに心の片隅で惹かれ合っていた。

姫川と牧田が並んで歩いているときに、牧田は組関係者に出くわし、喧嘩に発展する。
そのことで姫川は、牧田の正体を知る。
土砂降りの夜の出来事だった。

姫川は、牧田の過去を調べ、自分との共通点を感じる。

姫川は、牧田が暴力団と知りながら受け入れる。
駐車場に停めた車の中で、肉体関係を結びそうになるが、携帯電話に今泉係長から連絡が入り中断。

姫川は、牧田の協力を得ながら、捜査を進める。
姫川は、所在不明であった柳井健斗が、自宅とは別のアパートの一室で遺書を残して自殺しているのを発見。
事件の真相が、徐々に明らかになるなか、姫川は牧田が事件に関わっていることを知る。

姫川は、以前二人きりで会ったマンションの駐車場に牧田を呼び出す。

「……好きだったのに……信じてたのに」

姫川が、牧田を問い詰めていると、二人の男が現れた。
牧田の舎弟の川上義則と小林殺しの実行犯である伊藤滋。

川上は姫川に拳銃を向ける。
牧田は川上を制止するが、命令に従おうとはしない。

不意に滋が、刃物を握って向かってきた。
牧田は、姫川と滋の間に入る。
なぜか繁は、牧田をめがけて刃物を突き出した。

待機していた捜査員が、一斉に飛び出してきたが、間に合わない。
川上と滋は現行犯逮捕され、事件の真相が明かされる。

一連の事件は、複雑な人間関係が絡み、意外な事態に発展していった。
殺人犯の動機や心理状態、事件の真相は、終章を読むとはっきりする。
意外性のある展開だが、現代社会では、成立する筋書き。

小説の最後では、和田課長をはじめ捜査一課の幹部が、九年前の不祥事を隠そうとした長岡刑事部長と刺し違えるつもりで、記者会見を開く。

予測が難しいストーリー展開でありながら、話の筋が自然だ。
フィクションではあるが、リアリティがあるため、もしかしたらどこかで起こりそうな気がしてくる。

刑事が天職のような主人公の姫川、極道だが男気のある牧田、この二人が小説『インビジブルレイン』では中心人物であった。
姫川と牧田の内面描写に力を入れている。

姫川と牧田が出会う場面やクライマックスは、姫川の視点と牧田の視点を、それぞれ別の段落に分けて書いてある。

刑事部長および捜査一課の幹部は、一連の殺人事件を防げなかった責任で、実質的な懲罰人事で異動となる。
姫川が所属する捜査第一課殺人犯捜査第十係も解体された。

姫川玲子の異動先は、池袋警察署刑事課強行犯捜査係。
所轄異動のため、肩書は係長。

ふと空を見上げ、見えない雨を探すことだってある。