文学の嗜み

文学表現全体の総合的な研究

映画『百円の恋』精一杯やれば人生は変わる

 

百円ショップでの出会いから始まった恋。
ただし恋物語というよりは、人生論に重きを置いた作品と言えるであろう。

弁当屋の娘と引退間際の中年ボクサーが出会い、一緒に暮らすようになるが、幸せな結末には至らない。
二人の恋愛よりも、不幸せな主人公・斎藤一子(安藤サクラ)が、人生の挫折から立ち直ろうと努力し始めるところに感動がある。
と言うよりも、映画冒頭の一子は、あまりにもだらしない。

主人公の一子は、実家で自堕落な日々を送る32歳の独身女性。
実家の1階では、母親の佳子(稲川実代子)が弁当屋を切り盛りしているが、娘の一子は無職にもかかわらず、店や家事の手伝いを一切やらない。
一子は、家に籠ってテレビゲームばかりしている。
たまに近所にあるコンビニ風の百円ショップへ自転車で買い物に行くくらいだ。
身だしなみや恰好なども、いつもだらしなく、家にいる時だけでなく、出かける時もだらしない恰好をしている。
その事について本人は、女を捨てていると言っている。

両親からは、実家に引きこもっていることを、あまりきつく言われない。
注意はするが、一子の自堕落ぶりからすると、両親は甘いと言えるだろう。
母親の佳子は、一子のことを悩んでおり、心配しているが、一子はなかなか生活を改めない。

そんなある日、妹の二三子(早織)が、子どもを連れて実家に戻ってきた。
二三子は、店の手伝いを始める。
一子は、二三子の息子と一緒にテレビゲームをするようになったほかは、今まで通りの生活を続けている。
二三子は、一子を見て呆れてしまい、母親に対して一子に甘すぎると言い出す。
これは当然の反応だろう。
そして一子と二三子は喧嘩になる。
母親も、二三子の言い分の方が正しいことは理解している。

一子は、とうとう家を出ることに。
家を出ることになった一子は、百円ショップの深夜労働の職に就き、アパートで一人暮らしを始めた。
就職したものの、この百円ショップで働く店員たちには、それぞれ問題がある。
一子は困惑しながらも仕事をする。

ただ、百円ショップの店員になったことで、一子はボクサーの狩野祐二(新井浩文)やボクシングと出会えた。

36歳の狩野祐二は引退間近のボクサー。
37歳になると、ボクサーのライセンスは自動的に失効する。

一子は、帰り道にあるボクシングジムで練習する狩野祐二を覗き見するのを、楽しみにしていた。
黙々と練習をする姿に感心している様子で、ボクシングにも興味を持ち始めたのかもしれない。

狩野祐二は、一子の働く百円ショップに、バナナを買いに頻繁に訪れていた。
ある日、狩野祐二がバナナをレジに置き忘れたことで、二人の距離は縮まる。

一子は、狩野祐二が通うボクシングジムへバナナを届けに行った。
すると、狩野祐二は一子をデートに誘う。

二人の関係は深まり、同棲することに。
ただしこの恋は、狩野祐二が一子を裏切り他の女のところへ去ってしまうという結末に終わる。

この映画は、一子がボクシングを始め、試合に出たときが、大きな山場になっている。

一子は、狩野も所属していた青木ジムに入会することを決意し訪れる。
青木ジムは、プロボクサーだけでなく、ダイエットなどが目的の若い男女も受け入れているが、一子はプロボクサーになって試合をしたいと言い出す。
プロボクサーは、生やさしい努力でなれるものではないし、危険な世界だ。
一子の年齢も、プロテストを受けられるギリギリ。
受験資格年齢の上限は、2016年より34歳に引き上げられたが、映画が公開された2014年は32歳。
ジムの会長(重松収)は、最初は困惑するが、一子の熱意に押されて了承する。
無理だと悟れば途中で投げ出すだろうし、プロテストを受けても合格するとは限らない。

一子は、根性を見せ、日夜鍛錬を積む。
気付くのが少し遅かったが、才能があったのかもしれない。
一子は、プロテストに合格し、いきなり競合相手に挑むことに。

一子の試合当日、両親や妹も応援に駆け付けた。
ただここでは、さすがに現実的な結果に終わる。
一子は滅多打ちにされる。
一子の渾身の一撃でも、相手は倒れない。
こうして一子の挑戦は幕を閉じる。

一子は、恋愛やボクシングでは挫折を味わったが、大きく変わることができた。

この映画の脚本は、2012年に新設された脚本賞のグランプリ作品。
新設された脚本賞とは、「松田優作賞」。
第一回「松田優作賞」グランプリ作品が、足立紳さんの『百円の恋』である。
国内外からの応募総数151の脚本より選ばれたグランプリ作品である。

監督を武正晴さんが務めた。